「若者の●●離れ」
そんな言葉を耳にする昨今。特に高級ブランド品に関して、とみに言われるようになってきました。
なぜ若者が高級品を買わなくなったか。その要因は様々ですが、一つには「興味がない」「所有したいと思わない」というものがありますね。
各産業で生産技術が飛躍的に高まる中、ノーブランドでも及第点のデザイン・品質を持った製品は少なくありません。衣類や小物を所有するなら、そんなノーブランドで十分事足りる、と。
また、誰もが知ってるハイブランドよりも、自分自身の好みのブランドを・個性的なブランドを、と言った、価値観の変遷が理由として挙げられることもあります。
しかしながら、そもそもの前提として、本当に若者は高級ブランド品を買わなくなっているのでしょうか。
と言うのも、高級時計専門店GINZA RASINとして長らく東京 銀座で店を構えている弊社としては、20代~30代にかけての、いわゆる「ミレニアル世代」のお客様にもよくご購入頂いていると感じているからです。
また、街中ではハイブランドのアイテムを所有しているお若い方々を見かけることが、最近になって特に少なくなってきたとは思いません。
そこでこの記事では、20歳~35歳の全国の男性を対象に、高級ブランド品への購買意欲調査を行いました。
なお、弊社の業種上、高級時計への意識調査に特に力を入れたものとなっております。
併せて、現在35歳~50歳までの男性にも同様の調査を行い、世代によって購買意欲に変化があるのかもご提示いたします。
本当に、若者は高級時計を買わなくなったのか?
我々の若い頃と比べて、その意識は全く異なるものなのか?
老若男女にご確認いただければ幸いです。
目次
若者の高級ブランド品への購買意欲調査の概要
若年層の高級ブランド品への購買意欲を探ることを目的に、全国の20歳~35歳までの男性を対象に、以下の調査を行いました。
調査名:若年層の高級ブランド品への購買意欲調査
実施時期:2020年7月
調査手法:インターネット調査
調査対象:20歳~35歳の男性(居住地・職業問わず)
調査項目
①所有しているブランド品調査
②高級時計の購買経験の調査
③興味のある高級時計ブランド調査
④今後のブランド品への購買意欲調査
若者が所有している高級ブランド品
上のグラフが、現在20歳~35歳までの男性が所有しているブランドアイテムを調査した結果です(※複数回答可)。
実に65%もの方々が、既にブランド品を所持していることがわかりました。
所有アイテムは財布が最も多く、次いで時計,バッグ類と続きます。ただし「所有していない」層も多く、こちらは得票率としては二番目になります。
なお、最も所有率の高いブランドがルイヴィトンです。
ルイヴィトンは世界で一番有名なファッションブランドでしょう。リサイクルショップや質店等でも取扱いが豊富で、ボロボロだったり壊れていたりする製品でも値段がつく、と言われています。その理由の一つは、お若い方々のニーズがとても高いため。まだブランド品を持つような世代ではない若者が、「新品よりうんと安く買える」と買っていかれるのだとか。
次いで所有率が高かったコーチも若者人気を代表するブランドです。
ルイヴィトン同様に革製品の上質さに定評がありますが、ルイヴィトンと異なりアウトレット展開を意欲的に行っており、比較的手に入れやすい価格帯を維持しているのも人気の秘訣。「初めて買った高級ブランド品はコーチだった」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、調査対象が男性であったため、アルマーニやポロ・ラルフローレン,ポールスミス・コレクションといったビジネススーツを中心に展開するブランドの所有率が高いことも見てとれます。
◆年齢別分布
こちらは年齢別で見た高級ブランド品の所有状況です。
所有率は20代・30代で大きく変わりませんが、20代は財布,ファッション(服),バッグ類の所有が多いことに対し、30代は財布が多く、次いで時計,バッグ類のブランド品を所有していることがわかります。
また、所有ブランドについては、20代・30代ともに最も多いのがルイヴィトンとなりますが、20代はグッチ,同率でコーチ,バーバリー,シャネル,ブルガリ,ドルチェ&ガッバーナと続きます。
30代は比較的所有ブランドが分散しており、特にビジネスマンをターゲットにしたアルマーニやポールスミス・コレクション,ロレックス等の所有が目立ちました。
また、当調査は複数回答を受け付けた結果、30代の方が所有アイテムが圧倒的に多く、複数のブランド品を所有していることがわかりました。
◆世帯年収別分布
こちらは世帯年収別で見た高級ブランド品の所有状況です。
最も所有率の低い世帯年収は~300万未満でしたが、300万円を超えると大きな差はついておりません。
また、1000万円を超える世帯年収の回答者は500万~600万未満の世帯年収の回答者とほぼ同数でしたが、所有率は後者の方が高いことがわかります。
結論として、高級ブランド品の所有率と世帯年収に大きな相関関係は見られないことがわかりました。
なお、最も高級ブランド品のアイテム数を多く回答したのは、400万~500万未満の世帯年収者でした。
若者の高級時計の購買経験調査
こちらは、「これまでに10万円以上の高級時計を購入したことがありますか?」という調査に対する回答項目です。
33%の若者が、既に10万円以上の高級時計の購入経験を持つことがわかりました。
なお、年代別に見ると20代では23%、30代では36%の方々が経験されています。
世帯年収別では、300万円未満が18%、300万円~400万円未満が18%、400万円~500万円未満が29%、500万円~600万円未満が36%、600万円~700万円未満が10%、700万円~800万円未満・800万円~900万円未満が40%、900万円~1000万円未満が48%、1000万円以上が66%で購入経験が分布しました。
若者が興味を持っている高級時計ブランド
こちらは、若年層が現在興味を持っている高級時計ブランドを、複数回答してもらった結果です。
「その他」として回答した13%は、「特にない」「どれも興味がない」「時計を着けない」といった回答でした。
このことから、87%の若者は、何らかの高級時計ブランドに対して興味を示していることがわかります。
最も「興味があるブランド」として上げられたのは、ロレックスです。
次いでオメガ,タグホイヤー,同率でブライトリングとグランドセイコーが挙がりました。
この分布を見るに、価格帯によって興味の有無が変わるというよりも、若年層の興味は各ブランドの知名度に比例していると考えられます。
また、時計ブランドのみならずファッション・ジュエリーブランドの時計に興味を持つ層もおり、若年層は「時計と言えば●●!」といった固定的なイメージではなく、多彩な価値観が広がっていることが見て取れるのではないでしょうか。
なお、「その他」として興味がないと回答した年齢は、20代・30代ともに大きな差は見られませんでした。
ただし、30代の方が興味があるとして挙げたブランド数が上回っており、また、パテックフィリップやヴァシュロンコンスタンタン,オーデマピゲといった雲上ブランドを挙げた率も高くなっています。
若者が高級ブランド品を購入する時に重視していること・もの
こちらは、高級ブランド品を購入する際、どのようなこと・ものを重要視して購買に達している(または購入しようと思っている)かの調査結果です。
若年層が最も重要視するのがデザイン,次いで価格。そしてその後購入する気は無いが続きました。
年代別に見ると、20代が最も重要視するのがデザイン、次いで同率で価格と「購入する気は無い」、そのあとに品質が続きます。
一方の30代はデザインを最も重要視しており、次いで価格,品質にこだわっていることがわかりました。
ちなみに、世帯年収別に見た時、最も「購入する気は無い」と選んだ方が多かったのは、300万円~400万円未満の層となります。
調査結果サマリー
◆若者の65%が、既にならんかのブランド品を所有している
◆特に所有率の高いブランドアイテムは財布、次いで時計,バッグ類。ただし「所有していない」も多い
◆若者が最も所有しているブランドはルイヴィトン、次いでコーチ,バーバリー
◆所有しているブランド品のうち、時計メーカーではロレックス,ブライトリング,グランドセイコー等が挙がった
◆世帯年収と高級ブランド品の所有率には、相関関係が見られなかった
◆若年層の33%が既に10万円以上の高級時計を購入している
◆若年層の23%が今後高級時計を購入する気がない
◆若年層の87%が何らかの高級時計ブランドに対して興味を持っている
高年層の高級ブランド品への購買意欲調査の概要
現在の若者だけが、本当に高級ブランド品への購買意欲を無くしているのか?
そのことを解き明かすために、36歳~50歳までの男性を対象として、同様のインターネット調査を行いました。
質問項目も同様となります。
①所有しているブランド品調査
②高級時計の購買経験の調査
③興味のある高級時計ブランド調査
④今後のブランド品への購買意欲調査
高年層が所有している高級ブランド品
こちらが、高年層に対して高級ブランド品の所有について調査を行った結果です。
若年層に比べると所有するアイテムは多いものの、「所有していない」と答えた層も30%近くとなりました。
特に所有率の高いブランド品アイテムは財布、次いで時計,靴。しかしながらファッション小物やバッグ類,その他小物等、比較的どのアイテムも所有していると答える層が多かった印象です。
所有している高級ブランドは若年層と同様にルイヴィトンが圧倒的に多かったです。
しかしながら二位にはアルマーニ。そしてバーバリー,ポロ・ラルフローレン,イヴ・サンローラン,ポールスミス・コレクションが続いており、ビジネス向けのアイテムに力を入れているブランドを多く所有していることがわかりました。
一方で若年層に人気があったコーチやクロムハーツには、あまり票が集まりませんでした。
なお、高年層になると、年齢別で所有するアイテム傾向やブランドの偏りは、あまり見られませんでした。
ただし、ブランド時計の所有率は30代に比べて40代が圧倒的に大きくなります。
ロレックスの所有率も、40代は最も多く47%という結果になりました。また、「その他」としてオメガ,グランドセイコー,ブライトリング等が挙げられています。
世帯年収別に見ると、最もブランド品の所有率の低い層は200万~300万未満でしたが、若者と同様にこちらも300万円を超えると顕著な差がありません。
また、若者と比べて年収1000万円以上の世帯が増えていますが、「所有していない」と答えた層は33%に上っています。
なお、ブランド品を最も所有している層は、600万~700万円未満、次いで500万~600万未満でした。ちなみにブランド時計を最も所有している世帯年収の層も600万円~700万円未満となります。
結果として、こちらも世帯年収との相関関係は見られないことがわかりました。
高年層の高級時計の購買経験調査
こちらも、「これまでに10万円以上の高級時計を購入したことがありますか?」という質問項目です。
若者と比べると高年層は圧倒的に「はい」が多く、72%に上りました。
年代別にみると30代では52%とほぼ半数、40代になると76%のもの方々が経験されています。
また、高年層でかつ上記質問に「はい」と答えた方に対しては、「初めて10万円以上の高級時計を購入したのは何歳の時ですか?」という質問を併せて行っております。
結果として、20代以下と答えた層が36%、30代と答えた層が40%、40代と答えた層が24%でした。
世帯年収別では300万円未満で「はい」と答えた層は22%、300万円~400万円未満が36%、400万円~500万円未満・500万円~600万円未満が68%、600万円~700万円未満が82%、700万円~800万円未満が72%、800万円~900万円未満が66%、900万円~1000万円未満が56%、1000万円以上が66%で購入経験が分布しました。
高年層が興味を持っている高級時計ブランド
こちらも、高年層が現在興味を持っている高級時計ブランドを、複数回答してもらった結果です。
「その他」が28%ですが、こちらは「特にない」「どれも興味がない」「時計を着けない」といったものの他、今回のリストにはないブランド(モーリスラクロア,チャペック,エドックス等)が多数挙げられました。
このことから、高年層の多くが興味を持っている高級時計ブランドがあることを示唆します。
また、最も「興味があるブランド」として挙げられたのは、ロレックスです。若者と同様ですね。
次いでオメガ、グランドセイコー,ウブロ,ブライトリング等に高い関心が寄せられていますが、高年層は一人ひとりの「興味を持っているブランド」が多く、ほとんどのブランドが比較的万遍なく票数を集めていることがわかりました。
高年層はどちらかと言えば時計専業メーカーに関心を持っている層が多く、「時計と言えば」のブランドが決まっているようにも思います。
なお、年齢別に選ぶブランドに大きな違いがあったわけではありませんが、40代になるとパテックフィリップやヴァシュロンコンスタンタン,オーデマピゲ、ランゲ&ゾーネにブレゲといった雲上ブランドへの興味が大きくなり、パテックフィリップに至っては40代の58%が興味を示していました。
高年層が高級ブランド品を購入する時に重視していること・もの
高年層が高級ブランド品を購入する際、どのようなこと・ものを重要視しているかの調査です。
最も重要視するのが品質、次いでデザイン,価格が続きました。また、価格とそれほど大差なくブランドの知名度・イメージや機能性,使いやすさも大切にされています。
特筆すべきは、「リセールバリュー(購入後売る時の価格)」が圧倒的に若年層と比べて重要視されている、ということ。
高級ブランド品と量産品との大きな違いの一つに、「使った後に売れる」というものがあります。もちろん全ての製品に言えることではありませんが、ブランド品は「修理しながら長く使う」ことが前提となります。そのため使い古した後でもしっかりとメンテナンスを受ければ、リユース市場で再販され、次のオーナーの手へと渡っていくことができるのです。
ルイヴィトンやシャネル,グッチ,ロレックス,オメガ,ウブロと言った、人気ブランドであればあるほどリセールバリューは高くなる傾向にあります。
そのため36歳以上の高年層では、こういった高く売りやすい製品を選択している層が一定数いらっしゃるのでしょう。
また、高年層の「購入する気は無い」は16%と、若年層よりも低い数値となりました。
年代別に見ると、30代が最も重要視するのがデザイン、次いで価格、品質と続きました。「購入する気はない」は18%です。
40代では最も重要視するのが品質、次いでデザイン、同率で価格とブランドの知名度・イメージが上位に挙がりました。なお、「購入する気はない」は15%です。
ちなみに、世帯年収別に見た時、最も「購入する気は無い」と選んだ方が多かったのは、300万円未満の層となります。
調査結果サマリー
◆高年層の80%が、既にならんかのブランド品を所有している
◆特に所有率の高いブランド品アイテムは財布、次いで時計,靴
◆高年層が最も所有しているブランドはルイヴィトン、次いでアルマーニ,バーバリー,ポロ・ラルフローレン
◆所有しているブランド品のうち、時計メーカーではロレックス,オメガ,グランドセイコー等が挙がった
◆世帯年収と高級ブランド品の所有率には、相関関係が見られなかった
◆高年層の72%が既に10万円以上の高級時計を購入している
◆10万円以上の高級時計の購入したことがある高年層のうち、30代での購入経験が最も多い
◆高年層は若年層よりもブランド品の購入に対して品質や機能,リセールバリューを重要視している
結論:若年層の高級時計・高級ブランド品への購買意欲は低いとは言いきれない
以上の調査結果をまとめると、確かに高年層と比べると若者の高級ブランド品の所有率は低く、所有しているアイテムも少ないこと。また、高級時計の購入経験は高年層と比べて少なく、「興味のある時計ブランドがない」と考えている方も多くなります。
一方で、一定数の若者がブランド品を一つまたは複数個所有し、10万円以上の高級時計の購入経験があること。また、若者の87%が何らかの高級時計ブランドに対して興味を持っていることを鑑みると、必ずしも「今の若者は、高級ブランド品を買わなくなった」と断じることはできないのではないでしょうか。
確かに高年層と比べると高い購買意欲ではありませんが、高年層で初めて高級時計を購入したのが30代、とした方が多かったことを鑑みるに、あるいは現在の高年層も「若者」であった頃は高級ブランド品を所有したことがない・興味がなかった、と仮説を立てることができます。
また、さらに高年となる50代~60代以上といった、バブルを経験した世代と比較すると、あるは現在30代後半~40代の高年層もまた、「高級ブランド品を買わなくなった」と言えるかもしれません。
また、若者の「誰もが知るブランド」「みんなが持っているブランド」への興味関心の高さもうかがえます。
今回の調査でも、高年層と比べて若者が「所有している」「興味がある」として挙げたブランドに、ルイヴィトンやロレックス,オメガといった人気どころが多く票を集めました。
ただし、現在の若者が今後年齢を重ねた時、どのようなブランドを選んでいくかはまだ予測できません。
また、現在はかつてに比べて様々なブランドが林立しており、バリエーションの多彩さも昔と比べ物にならないほどです。
そのため、各メーカーや小売業者は「ミレニアル世代をどう顧客に取り込むか」が大きな課題となっており、若者の購買行動の傾向やニーズに対して、より注意を払う必要があるでしょう。
まとめ
東京 銀座に高級時計専門店を構えるGINZA RASINが、「若者は本当に高級ブランド品を買わなくなったのか?」を調査してみました!
必ずしも「若者が高級ブランド品を買わなくなった」とは言えない、と結論づけましたが、今後の社会情勢によっては結果が変わってくるかもしれません。
とは言え時計専門店としては、まだまだ高級ブランド品へのニーズは健在で、今後若者世代が牽引してくれる・・・そんな期待を込めて、この記事を締めくくることとします。
文:鶴岡
■業界のプロ30人が徹底格付け!世界で最も価値ある時計ブランドランキングTOP10
■新型コロナウイルスで景気減速・・・ロレックス相場はどうなる?2020年高級時計の売り時を考察する
この記事を監修してくれた時計博士
田中 拓郎(たなか たくろう)
- (一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
- 高級時計専門店GINZA RASIN 取締役 兼 経営企画管理本部長
当サイトの管理者。GINZA RASINのWEB・システム系全般を担当している。
時計のマーケットに非常に精通しており、買取相場や買取お役立ち情報はもちろん、リユース業界の報道や最新ニュースなど、幅広い分野で監修に携わっている。
また、スイスで行われる腕時計見本市の取材も担当してきた。得意なブランドはブレゲ、ランゲ&ゾーネ。時計業界歴12年。