日経新聞から、三越伊勢丹がリユース市場に参入する旨が報道されました。2021年秋より「不要品の買取サービス」をスタートさせるとのことです。
新型コロナウイルス禍やそれに伴うサスティナビリティ(地球や社会の持続可能性)意識の高まりによって、リユース市場へと参入する企業が増える昨今ですが、大手百貨店が参画する事例は国内初。三越伊勢丹がリユース市場への参入を決めた背景には、どのような業界事情があるのでしょうか。また、こういった大手異業種の参入はリユース市場にどのような変化をもたらし、実際に買取サービスを利用するユーザーに、どのような恩恵をもたらすのでしょうか。
この記事では三越伊勢丹の参入について、また今後のリユース市場の動向を、高級時計専門買取店の立場から解説致します。
伊勢丹新宿店で不要品買取サービスがスタート
2021年8月3日付の日経新聞より、三越伊勢丹が秋にもリユース市場(中古品市場,二次流通市場)に参入することが報じられました。
まずは伊勢丹新宿店で不要品買取サービスコーナーを設け、購入元がどこかを問わず、服や宝石,絵画などを対象に買取に応じる、とのことです。お買取り成立後には現金をその場でユーザーへと支払い、モノは特定業者へ卸販売(おろしはんばい)が行われます。
なお、買取品の中には売却しづらいモノもあることでしょう。その場合はリサイクルやリメーク,あるいは百貨店での展示販売や寄贈を検討しており、「最終的にモノがどうなるか」を顧客に説明していく旨が強調されています。
背景
伊勢丹新宿が買取サービスを始めた背景には、近年類を見ないほど成長するリユース市場の存在があるでしょう。
リサイクル通信(リユース市場に関する専門新聞)が発表するところによると、2018年時点でリユース業界の市場規模は2兆1880億円。2022年には約3兆円規模へと拡大することが予測されています。
従来、リサイクルショップや買取店に代表されるように、中古品の売買はオフライン型―いわゆる店舗型―がメインでした。そのため買取サービスを利用しようと思ってもユーザーが店舗に足を運ばなくてはならず、また買取査定の内訳やその後の販売ルートが不明瞭というきらいがありました。加えてユーザー自身の中古品売買に対する抵抗感も、少なくありませんでした。
しかしながら近年では「ヤフオク」や「メルカリ」といったオンライン上でのBtoCあるいはCtoC売買が活発となったこと。また新型コロナウイルス禍によって身辺整理を行うユーザーが増えたり、サスティナビリティ意識が高まったりしたことから「買って使ったら捨てる」ではなく「次のユーザーへと手渡していく」といったリユース形態が再評価されており、市場拡大に繋がったことが考えられます。
こういった背景から三越伊勢丹に限らず新規参入する企業は非常に多く、異業種はもちろんメーカー側も「自社製品のリユース市場の創出」に積極的になってきました。有名どころではヤマダ電機や大塚家具が挙げられますね。
古くからリユース市場を確立してきた高級ブランド品でもこの潮流は始まっています。
例えば人気高級時計ブランドのフランクミュラーやリシャールミルは、中古時計の正規認定サービスをいち早く行っていました。これは自社の中古商品の買取・下取りサービスとなりますが、併せて「正規認定中古時計」として販売も行っており、当該商品は正規メンテナンスを施された後、メーカーの国際保証書とともに次のオーナーへと渡っていくこととなります。中古品であっても正規保証や正規アフターサービスが受けられ、かつ真贋や品質に関してはメーカーお墨付きとあって、業界からもユーザーからも非常に注目されているサービス形態です。
※フランクミュラー ロングアイランド。非常に人気が高く、ロングセラーであることから中古品売買も非常に活発。
また最近では今春、グッチやバレンシアガを傘下とするケリンググループが、ラグジュアリーブランドのリユース品を専門に扱うサイト「Vestiaire Collective(ヴェスティエール コレクティブ)」に出資。このサイトは中古品の売買プラットフォームというだけでなく、ケリング傘下のブランド「アレキサンダー・マックイーン」が提携して顧客からの買取品を「ブランド認証済」としてサイト上で販売するというもので、前述した認定中古サービスを同様にスタートさせています。
さらに最近の事例を付け加えると、リユース品売買とはまた異なりますが、LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)グループが立ち上げたECサイト「Nona Source(ノナ・ソース)」では、同グループの生産ライン上で余剰となった未使用の布・レザー生地をディスカウントしたうえで販売しています。
こういった流れの中で、企業のSDGs(サスティナブル・デベロップメント・ゴール。持続可能な開発目標)の責任とともに、そしてよりユーザーがリユース品を売買するための選択肢が増えていくとともに当該市場はますます拡大していくことが見込まれ、三越伊勢丹でも新規参入に至ったのでしょう。
では、こういった市場成長は、業界やユーザーにどのような変化をもたらすのでしょうか。次項で解説致します。
リユース市場の拡大によって激化する競争とユーザビリティの変化
※1999年に生産終了したロレックス GMTマスター 16700。リユース市場では現在メーカーが製造していない生産終了モデルも手に入れられるとあって、時計業界では古くから活発な売買が行われてきたのは前述の通り。
前項でもご紹介した通り、三越伊勢丹を始めリユース市場に異業種やメーカー側から本格参入を果たす事例は近年増え続けています。
これに伴い競争はますます激化しており、「これから新規参入する企業は厳しい戦いを強いられる」といった声も聞かれます。とりわけ大手買取店や専門買取店は豊富な販売ルートを武器に、高額買取を意欲的に実施しています。
この「販売ルートの確保」は買取業界において重大なキーポイントです。販売ルートを確保していなくては、せっかく良い商品を買取したとしても次の顧客に手渡すことができず、業者・顧客ともに思わぬ損をしてしまうことに繋がります。また、基本的に販売ルートはBtoCであるほど高い売却益が見込めます。なぜなら基本的には卸(おろし)価格よりも一般ユーザーへの販売価格の方が高い傾向にあり、したがって自社で買取・販売を行える企業は高額買取しやすい傾向にあるためです。
こういった販売ルートの確保こそが、古参にしろ新規参入にしろ、買取業者には求められていると言えます。
もっとも三越伊勢丹では「価格」で競争するのではなく、長年の実績と信頼,そして社員による手厚い接客によって差別化を図るようです。
確かに初めて不要品を売却するとなった時、「どの買取店にしようか」と悩むユーザーは少なくないでしょう。
それは前項でも言及しているように、買取サービスがやや不明瞭な印象を持つことに起因しているように思います。査定はどのように行われているのか,査定額はどのような内訳になっているのか・・・もっと言うと「買い叩かれていないか」「偽物にすり替えられていないか」といったご不安を抱えたことがある、と言うユーザーの声をまま聞きます。また、買取店では売却時に必ず身分証明書の提示を求められますが(古物営業法で定められているため)、「よく知らない業者に、個人情報を渡したくない」といったマインドもあるようです。
一方の三越伊勢丹であれば、その点では絶大な信頼感がある、と。
また、三越伊勢丹は外商顧客(店舗販売にこだわらず、顧客へ直接モノの販売やサービス提供を行う古くからの販売スタイル)を抱えているため、ご自宅への出張買取によって不要品処分のサポートを行うこともカバーしていくようです。
こういった信頼関係のもと、「高値で買い取る」ことではなく「不要品を綺麗に気持ちよく処分する」ことを価値として提供し、また別の商品の購買を提案していくことが狙いである、と。
三越伊勢丹のリユース市場参入が、今後どのような展開を見せていくかはまだわかりません。
しかしながら市場が激化すれば、それだけ一般ユーザーにとってはもたらされる恩恵も大きいと言えます。
なぜなら競争が激化すれば、やはり「価格面」で他店同士が競り合っていくこととなり、結果として消費者にはより高額な査定金額が提示されていくことを示唆します。
また、参入企業が増えた結果、これまで「街のリサイクルショップに売りに行く」はずだった不要品処分が、ユーザー自身でお店や売買形態を選択―都市部の店舗で売るのか,オンライン上で済ませるのか等―できることに繋がります。
最近では口コミや評判がインターネット上で見えやすくなっており、買取店側も「ユーザーに選択されること」すなわち集客は競争として大いに重要度を増しており、サービスの充実が最優先課題となりつつあります。
例えば近年では多くの買取店で「宅配買取」や「オンライン上での簡易査定」を行っていますが、事前に概算金額を伝えることでユーザーは売却時のイメージを描きやすくなったり、また他店との比較を行いやすくなったりするもの。店舗によってはリピーター割引を設けたり、販売店を持つ企業は下取り優遇サービスを行ったりするところも。
このように市場拡大に伴い店舗同士の競争が激しくなると、ユーザーにとってはより選択肢が広がり、ユーザビリティが高くなる傾向にあります。また、各店舗も集客のため、サービス向上の一環として鑑定士育成に力を入れる,スタッフの接客レベルを上げるといった努力をし、ますますの成長に繋がっていくことでしょう。
さらに言うと、これまではタンスの肥やしになっていた貴重品が市場に出回ることは、各業界にとっても大変有意義なことです。
一方でリユース売買が活発化していくと悪徳店もまた活性化してしまったり、CtoC売買の際に思わぬトラブルが発生したり。加えて転売行為が過熱化してしまい、モノの適正価格が狂ったりする側面もあります。
健全かつ活発なリユース市場を実現するためにも今後の買取業界の動向を追っていくとともに、長年東京 銀座で高級時計の売買を担ってきた当店GINZA RASINでは、今後もお客様がご愛用されてきたお時計を大切に次のお客様へと橋渡ししていくことに尽力したいと思います!
まとめ
リユース市場に参入する三越伊勢丹の報道と、そこにあるリユース市場の背景,そして変わりゆく買取業界について解説致しました!
新型コロナウイルス禍による買い控えやインバウンド減少で小売り市場は冷え込んだと言われていますが、一方でリユース市場の活性化やサスティナビリティといった、新しい価値が高いユーザビリティへと繋がっていることも事実です。
文中でも述べているように、今後さらなる成長が見込まれるリユース市場。2021年も、その動向を追っていきたいと思います!
文:鶴岡
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この記事を監修してくれた時計博士
田中 拓郎(たなか たくろう)
- (一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
- 高級時計専門店GINZA RASIN 取締役 兼 経営企画管理本部長
当サイトの管理者。GINZA RASINのWEB・システム系全般を担当している。
時計のマーケットに非常に精通しており、買取相場や買取お役立ち情報はもちろん、リユース業界の報道や最新ニュースなど、幅広い分野で監修に携わっている。
また、スイスで行われる腕時計見本市の取材も担当してきた。得意なブランドはブレゲ、ランゲ&ゾーネ。時計業界歴12年。