日常で愛用していればしているほどに、トラブルが付き物の腕時計。
「突然動かなくなった」
「自動巻きなのに、ゼンマイが巻き上がらない」
「時計を落として一部が破損してしまった」
こんな時、どうすればー?
精密機器に分類される腕時計は、トラブル時に正しい対処法を知らないと放置させて悪化させたり、修理にかかる値段を知らずにビックリさせられたりするものです。
そこでこの記事では、腕時計のトラブル別にどのような修理対応が行われるのか・修理のお値段はいくらなのかを解説いたします。
今お持ちの腕時計に不安がある方は、症状に合わせた解決策をぜひご確認ください!
※掲載する修理費用はあくまで目安となります。
目次
腕時計が壊れた!修理依頼はメーカー正規?民間修理業者?
腕時計は症例ごとに対処法が異なりますが、さらに「修理の依頼先」によってお値段や納期が大きく変わってきます。
ただ、大きく分けると「メーカーに依頼するか」「民間の修理業者に依頼するか」の二択になるでしょう。
この依頼先それぞれの、メリット・デメリットをまず最初にご紹介いたします。
これはトラブル時ではなく、定期的なメンテナンスの際にも当てはまることとなります。
メーカー正規修理の場合
「正規修理」は購入したブランドのブティックや、日本法人に持ち込んで修理を行います。ちなみに現在では直接持ち込まずとも、メーカーホームページから無料梱包キットを手配し、そちらに時計を梱包のうえ郵送する手法も各社で行われるようになってきました。
メーカーの正規修理に出す最大のメリットと言えば、「安心感」ではないでしょうか。この安心感は自社製品の修理ノウハウが確立されている、ということもありますが、絶対に純正パーツが用いられるということも意味します。
非純正パーツが用いられた個体は、メーカーによっては正規修理を断られたり資産価値が下落したりするケースがあります。
また、メーカーで修理・メンテナンスを受けると「メーカー修理明細書」「メンテナンス保証書」などが新たに発行され、都度保証期間が新たに設けられます。この修理・メンテナンス時に付随する保証期間はメーカーにもよりますが、1年~2年の設定が多いです。
デメリットとしては、どうしても費用が高額になること。後述する民間修理業者と比べて、数万円もの差がつくケースも少なくありません。なお、メーカーの中には並行輸入で購入されたモデルの修理費用を高く設定しているところもあります。
さらに言うと、納期も民間修理業者と比べて長くかかる場合があります。
人気ブランドや一般的な機能のモデルであればこの限りではありませんが、例えば日本法人や国内ブティックがない海外ブランドや、特殊なコンプリケーションモデルであれば、本国送りになってしまい数か月かかってしまうこともあります。
何本か所有している・毎日使うわけではない、という方以外は、不便ですよね。
以上がメーカー正規修理の場合のメリット・デメリットとなります。
民間の修理業者の場合
インターネットで検索すると、たくさんの修理業者が出てくるでしょう。
この修理業者は時計販売を行っているところもありますが、ほとんどが修理専門の民間業者となります。
民間修理業者の最大のメリットは、メーカー正規修理と比べて費用が圧倒的に割安であること。
業者やどのモデルを修理するかにもよりますが、メーカー正規修理の半額~7割程度になるのが相場です。
当然ながら国内修理となるため、国際輸送に伴う納期の遅れもありません。
なお、「純正パーツ以外には絶対に交換しないでほしい」と思っている方も、ご安心ください。修理を依頼する際にその旨を伝えれば、そこで可否を告げてくれます。もし純正パーツでの交換対応ができない、というのであれば、別の業者に依頼しましょう。
もちろん純正パーツがあまり出回っていないブランドもあります。ただし、ロレックスやオメガといった人気ブランドであれば、よっぽどのヴィンテージではない限り純正パーツは豊富に流通しています。つまり、こういった民間修理業者であっても、純正品との交換で対応してくれるため、メーカー正規と「パーツ面」では大きな差異がないことを意味します。
ちなみに、民間修理業者であっても修理・メンテナンス後の保証期間を独自で設けているところも少なくありません。
一方で「安ければよい」といかないところが民間修理のデメリットです。
と言うのも、業者といってもピンキリで、腕の良い修理技師のいるお店の見極めが大切になってくるのです。
例えば金額はうんと安くても、腕の悪いところに頼んだばっかりに即座に再修理が必要になってしまった・・・などというケースは避けたいところ。
選ぶポイントとしてはどれだけの修理実績があるか・経営年数はどのくらいか,インターネット上での口コミ評価は高いか・・・こういったことをチェックすることが望まれます。
また、ブランドによって得意・不得意があることも事実ですので、修理対象のブランド時計の取り扱い実績が豊富な業者を選ぶことが最適です。
ただし、どの民間修理業者を選ぶか・あるいはメーカー正規修理とどう比較するかを考えるよりも、オススメの方法があります。それは、「時計を購入した店舗に相談する」というものです。
きちんとした時計専門の販売店であれば、独自の修理工房を所有していたり、民間修理業者と提携していたりすることがほとんどです。
また、メーカーごとの修理対応や修理費用を把握しているため、「このブランドならメーカー修理へ」「このモデルは当店の工房で」など、ユーザーにとって最適な選択肢を提案しやすいという利点も持ちます。
なお、いずれのケースであっても、修理への見積もりを必ずとり、内訳を確認しておきましょう。
その際、「見積もりは無料だけど、キャンセルになったらチャージをもらう」というような業者は避けた方が無難です。「キャンセル料金分損する」というわけではなく、その業者は依頼が少なく、儲かっていない可能性があるためです。
また、前述した特殊なコンプリケーションや、グランドセイコーのスプリングドライブといった特殊機構は、メーカー正規以外での修理が不可能となります。
基本的なメンテナンスにかかる費用
次に「修理」ではなく、電池交換やオーバーホールといった、基本的なメンテナンス費用について解説いたします。
修理の際も以下のお値段がかかってくる可能性があるので、目安として知っておきましょう。
電池交換
クォーツ式時計が動かなくなった。あるいは電池切れ予告機能が発動した(秒針がわずかずつ進む・デジタルであれば液晶が点滅する等)。
こういった事象は電池交換のサインです。
多くのモデルで2~3年、長寿命な個体であれば5年~10年スパンで電池交換は必要になってきますが、多機能機だと消費電力が大きくなるため、この間隔は縮まります。
そんなクォーツ式時計の電池交換のお値段は、大体1,000円~6,000円程度です。
交換も10分程度で済むケースが少なくありませんので、気軽にお願いできますね。
ただし、キネティックやソーラー電池といった特殊な二次電池だと、費用・納期ともにもう少しかかってきます。
また、電池切れを放っておくと電池が内部で液漏れを起こしてしまう場合があります。その際は電池交換とは別にオーバーホールが必要になります。
なお、ご自分で電池交換をおやりになる方もいらっしゃいますが、時計に傷をつけたり、内部にゴミやホコリが入ってしまったりする場合があるためオススメできません。
オーバーホール
分解洗浄とも呼ばれるオーバーホール。時計のムーブメントのパーツをばらし、一つひとつを洗浄して古い油を拭い去り、そして組み立て直して新しく潤滑油を注油する一連の工程ですね。
この潤滑油は何のためにあるかと言うと、パーツ同士の摩耗を防ぎ、経年劣化を低減させるため。当然油ですので酸化してしまうため、定期的に新しくする必要があります。
このオーバーホールは、機械式時計であれば3年~5年に一度を、クォーツ式時計であれば7~8年に一度を目安に行うことが推奨されており、いわば不可欠なランニングコストです。
ちなみに、オーバーホールはメーカーでも民間修理業者でも、作業内容はほとんど変わりません。
そのため特にパーツ交換が必要なく、コストを抑えたいなら民間修理業者に依頼する方が多いのではないでしょうか。
そんな民間修理業者のオーバーホール代金は、シンプルな手巻き・自動巻きであれば18,000円~、自動巻きクロノグラフは28,000円~、クォーツ式であれば15,000円~、クォーツでもクロノグラフやGMTといったコンプリケーションなら25,000円~が相場です。
ただし、グランドコンプリケーション等は10万円を超えるケースもあります。
納期は見積もりが出てから、大体1ヶ月ほどです。
なお、時計専門買取店によくお寄せ頂くお問い合わせの中に、「腕時計を売却する際はオーバーホールしてからの方がいいの?」というものがあります。
ケースにもよりますが、概ねオーバーホールをする必要はないと言えるでしょう。
なぜならオーバーホールがされた個体は確かに査定額がアップしますが、オーバーホール代金を賄えるほどではないためです。
一方で電池交換は手軽にできるため、査定前に行っておいても損は少なく、むしろプラス査定に繋がります。
ブレスレットのサイズ調整
ブレスレットがきつくなってきた・あるいはゆるくなってきた。そんな時は再調整することとなります。
この際にかかるお値段は、大体500円~1,000円程度。
ただし、購入店でもブレスレット調整は可能ですので、その際は無償で行ってもらえるケースもあります。
なお、コマを追加したい場合は、修理費用とは別にコマ代金もかかります。
コマ代金は民間であれば数千円~となりますが、その多くが中古です。また、在庫がない場合は取り寄せとなり、正規価格がかかってきます。
ベルト交換
革ベルトを交換したい時。
工具を所有していればご自身で行うことも可能ですが、傷や破損が心配な方は民間業者にお願いしましょう。
費用は大体1,000円~数千円程度となります。
メーカーに正規依頼する際は、前述の通り純正ベルトの購入となること。加えて正規料金となるため、数万円~10万円以上となるケースもあります。
ちなみに最近ではカルティエやパネライ等、ワンタッチでベルト交換を行うシステム搭載モデルも開発されています。ベルトをしょっちゅう交換する方は、ぜひチェックしてほしいブランドです。
よくある腕時計のトラブルと修理にかかるお値段
それでは、腕時計のトラブル別に、修理対応・修理にかかる費用を解説いたします!
トラブル①精度異常:お値段18,000円~
時計の時間が遅れたり進んだりと、著しく精度が狂ってしまった場合。
多くのケースで潤滑油が劣化し、パーツ同士の稼働がうまくいっていないことに起因します。
また、異常に時間が進んでしまう場合は、「ヒゲゼンマイ」と呼ばれる脱進機内のパーツになんらかの原因があると考えられます。
どちらの場合も一度ムーブメントを分解・洗浄しなくてはならず、お値段はオーバーホール代金の相場目安である18,000円~を見込んでおきましょう。
ただし、時間が進む場合、磁気帯びも考えられます。
磁気帯びとは、スマートフォンやパソコンといった電磁波を発する機器に時計を近づけたために、ムーブメントのパーツが磁化してしまった現象です。
軽度なものなら多くの時計店に常備してある脱磁機で「磁気抜き」を施すことで、直せます。
単なる脱磁であれば、修理費用の目安は1,000円~となっております。時間もかかりませんので、一度修理店に持ち込んでみましょう。
トラブル②時計が動かない:お値段18,000円~
時計を落としたら動かなくなってしまった。
あるいは自動巻きなのに腕に着けていてもゼンマイが巻き上がらず、時計が止まってしまう。
こんな場合も一度分解してパーツの破損や正常に稼働しているかをチェックするため、オーバーホールが必要になってきます。
ただし、「腕に着けているのに巻き上がらない」時、腕の動きが少ないケースがあります。十分な動力が得られず、ローターが回転していないのです。
自動巻きは、思っている以上に腕の振りが必要になってきます。そのため一日、最低でも8~10時間は着用し続けることをオススメします。
もしあまり体を動かさない・時計を長時間着用していないのであれば、定期的にリューズを使って手で30回~40回ほどゼンマイを優しく巻いてあげましょう。
トラブル③カレンダーの調子が悪い:お値段3,000円~
カレンダーがしっかりと切り替わらず、中途半端な位置で止まってしまう。
そもそもカレンダー板が動かない。
そんなときは、ムーブメントの「日送り車」に問題があります。また、カレンダー板にダメージがあるケースも。
この場合、日送り車を交換しなくてはなりません。修理費用の相場は3,000円~ですが、自社製ムーブメントだとさらに高額で10,000円~。
この部位の不具合を防ぐためには、「カレンダー操作禁止時間帯を守る」ことが重要です。
モデルや機構にもよりますが、一般的に午後8時~午前4時までの間は、機械式時計においてはカレンダー操作をしてはいけない時間帯となっています。
この時間帯はカレンダー板の歯と日送り車のツメがかみ合っているため、無理に動かそうとすると故障してしまうのです。
そのため、カレンダー操作を行う場合は、上記時間を避けましょう。
トラブル④時計の風防が曇っている・水滴がついている:お値段1,000円~
風防(ガラス)の曇りの発生が一時的なものであれば、時計内部と外気温に差があるためで、温度差が解消されるとすぐに収まります。
しかしながらずっと風防が曇っていた李、水滴が見られたりする場合、内部に水・湿気が混入してしまった可能性があります。
ねじ込み式リューズを引きっぱなしにして保管してしまったり、パッキンが劣化していたりする場合に起こりがちなトラブルです。
こういった場合の対処法は「どこから水が入ったか」によて変わってくるのですが、パッキンの劣化であれば交換が必要となります。お値段は、1,000円~が相場。比較的簡単なため、修理期間も長くはかかりません。
一方で風防にヒビが入っていたり破損していたりして水分が侵入した場合は、風防交換となります。
風防は素材によって代金が変わり、プラスティック風防なら5,000円~。
ミネラルガラスだと10,000円~。サファイアクリスタルガラスだと15,000円~が相場です。
ただし、風防が傷ついている場合、内部にガラスの欠片が混入しているケースもあり、その場合はオーバーホールを伴います。
トラブル⑤リューズに不具合がある(抜けた・ねじ込めない):お値段5,000円~
ゼンマイを巻いたり時刻合わせを行ったりするリューズ。
ここが壊れてしまうと、何もできなくなってしまいますね。さらに壊れたまま放置することで、内部にゴミや湿気が侵入してしまう要因にも。
このリューズの不具合で考えられる原因は、リューズそのものの劣化です。
強い衝撃を加えたために取れてしまったり、誤ったねじ込み方でクラウン部分がつぶれてしまったり、経年劣化で腐食してしまったりするケースも。
この場合はリューズ自体とチューブを交換しなくてはならず、5,000円~が相場です。ただし有名ブランドのパーツだと8,000円~と高額になります。
また、経年劣化や、内部に何らかの不具合があると判断された場合は、オーバーホールを伴います。
なお、稀に当買取店にリューズが紛失したままの状態のお時計が持ち込まれることがあります。買取査定は可能ですが、リューズの原価分を差し引いて査定額をご案内する形となります。
その時計がヴィンテージの一点モノだった場合は、数万円以上もマイナス査定となったケースもございますので、リューズが取れてしまったり潰れてしまったりしても、大切に保管しましょう。
トラブル⑥ブレスレットパーツやバックルを交換したい:お値段1500円~+パーツ代
メタルブレスレットはコマだけで構成されているわけでなく、きわめて小さいピンやパイプで連結されています。革ベルトも、ケースとベルトを繋ぐためにバネ棒が用いられています。
このパーツを紛失してしまったという方、結構いらっしゃいます。
また、強い力を加えて歪ませてしまった、という方も。
その場合はパーツ交換が必須ですが、ブレスレットを丸ごと交換するわけではないので、比較的低価格で対応してもらえます。
バックル(クラスプ)が破損していて交換となると、純正品を取り寄せることとなるため、ブランドやモデルによっては思った以上にお値段が張ることも。
ただし一部の破損であれば、溶接修理で対処できるケースがあります。
見積もりを依頼する際、どのような対応になるのか修理業者に確認しましょう。
トラブル⑦針が取れてしまった:お値段4,000円~
時計に衝撃を加えると、針が軸から外れてしまうことがあります。また、一部が歪んでしまってスムーズに動作しなくなる場合もあります。
この場合考えられるのが、ハカマと呼ばれる針の取り付け部分が緩んでしまっている、というもの。
改めて締め直す場合、修理代金は4,000円~を見積もっておきましょう。
ただしこのハカマ、オーバーホールを繰り返したことで広がってしまった可能性があります。
また、針が取れた衝撃で内部に別途不具合が発生する可能性も。
そのため、ただ単に針が取れただけでも、針自体を交換したりオーバーホールを伴ったりすることがあります。
こちらも、まずは見積もりを取ることが必要不可欠です。
トラブル⑧風防のトラブル(傷・破損):お値段5,000円~
トラブル④の「時計の風防が曇っている・水滴がついている」でもご紹介しましたが、風防のトラブル時の交換は素材によって異なります。
プラスティック風防なら5,000円~。
ミネラルガラスだと10,000円~。サファイアクリスタルガラスだと15,000円~が相場です。
なお、プラスティック風防であれば、傷は研磨である程度キレイにすることが可能です。
市販の研磨剤でご自身で行うこともできますが、形状が変わってしまう場合も。そのため専門業者に依頼することをオススメいたします。その際の修理費用は大体10,000円~となっております。
まとめ
腕時計のトラブル別に、どういった修理対応が行われるか。それぞれの修理費用の目安について解説いたしました!
オーバーホールが必要な場合,パーツ交換が必要な場合などなど・・・現在、腕時計の故障や不具合でお悩みの方の一助になれば幸いです。
なお、冒頭でもご紹介した通り、修理はメーカー正規依頼するか・民間業者に依頼するかも悩みどころ。まずは購入店に相談してみましょう!
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この記事を監修してくれた時計博士
廣島 浩二(ひろしま こうじ)
- (一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
- 一級時計修理技能士 平成31年取得
- 高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ・岡山県出身。
20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンに勤務。主に高級時計の販売に携わっていたが、25歳で時計修理技師を志し、上京。2012年にGINZA RASINに入社し、時計のメンテナンス業務全般に携わる。
現在はウォッチリペアスタッフのチームリーダーとして、業界トップクラスにクォリティの高いUSED品を提供している。時計業界歴19年。